花には心を和ませる力を持つと聞いたことがある。魔法のようだと思った。
 だけど、今確かにわたしの心は、かなり落ち着いている。

「ここの庭園は広いですから、お暇な時にじっくり見るのもよいかと」
「そうさせていただきます」

 ようは今は忙しいから、早く次のところへ行きたいということなのだろう。ここで時間を潰して、後のことができなくなるのは確かに困る。
 その後、噴水のあるところや彫刻・石膏を飾っているところなどいろいろ案内して貰った。

「では午後は食事の作法についてと、フロウ様とのお勉強となっていますので」
「わかりました」

 小さな溜息を漏らす。ジルが言うに彼は政治に携わっているので忙しく、彼から教わるのは政治経済のみ。後は彼が厳選したメイドさんたちに教わるようになっている。
 なんでも、この城のメイドさんたちは国立アカデミーという学校で勉学をしてきたエリートさんたちらしい。わたしも一応進学が決まった高校生だけど、レベルが違う気がする。


 お昼ごはんは一人で食べ、その後部屋で待機していると一人のメイドさんが入ってきた。

「失礼します」

 軽いノックをした後、入ってきたのは背の高い女の人だった。濃い茶色の短い髪をしたメイドさん。年齢的に20代後半ってところかしら。

「はじめまして」

 緊張している。だけど、最初のイメージは肝心。すると、彼女の方も微笑んで、はじめましてと返してくれた。
 よかった、心の中でそう呟く。

「私は食作法と日常生活について教えることになりましたアリサと申します。アリサとお呼びください」
「ね、合歓です。よろしくお願いします……」