「今、家ですか?」

『いや、会社。残業中でさ、ちょっと一息つこうと思って』



残業中の、会社からかけている電話。

結崎さんからしてみれば、ただの気まぐれだったのかもしれない。

でも、残業中に、ほんの一瞬でもあたしを思い出して電話をかけてきてくれたことが嬉しかった。



『今日は忙しかった?』

「いえ、めちゃくちゃ暇でした」

『誰とシフト一緒だった?』

「村岡くんです。あ、そうそう。村岡くんが、結崎さん元気かなって気にしていましたよ」

『はは、ホントに?』



顔が見えないからなのか、全身を縛り付けていた緊張の糸があっというまに解かれていく。

もしもこれが面と向かっての会話だったら、心臓が破裂しそうなくらいドキドキしていたと思う。