「ね?柚羽ちゃん」



あたしの気持ちなど知る由もない結崎さんは笑う。



「あ、じゃあ……、……永輝」



名前のところで、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声になる。

結崎さんは逃すことなく、きちんと聞いていて、笑った。



「そうそう、よくできました」




夜明け前の新聞配達のバイクの音を合図に、結崎さん……永輝はアパートを後にした。


電話の時とは違って、「また来るね」と、次に会う約束をした。

最初は挨拶代わりに違いないと思っていたけれど、約束通り、永輝はまた来てくれた。

コンビニで買ったたくさんのお菓子やジュースを抱えて。

その中には、あたしが好きだと言った杏のお酒も入っていた。


永輝と呼ぶこと、真夜中に永輝が部屋を訪れること。

嬉しかったけれど、でも、彼女という存在が心のどこかで引っかかっていた。