「もう!うるさい!希毬ー!希毬ー!」

「はーい」

門の外の私には、中の様子は見えず、声だけが聞こえる。

年輩の女性の声に、返事をした若い女性の声。

「私は犬が大嫌いなの!どっかへやりなさい!」

年輩の女性の声とともに駆け足の音。

「あ~ぁ嫌いだって、牡丹ー。こっちが嫌だよねぇ~、あんなガミガミおばちゃん」

そう言って、
微笑んだ声が聞こえた。

「あっ、どこ行くの?牡丹っ」

白い子犬が、屋敷の中から門の外へと出てきた。

『あ、さっきの子犬』

そして、
私の方へと駆けてきた。

駆け出す犬を追い掛けて、若い女性が出てきた。


「あっ…」


目と目が合い、
見知らぬ私に、
女性は足を止める。

私も、見知らぬ女性に、気まずくなり視線をそらす。

子犬は、私の足下に来た。


ー ワン! ー


真っ白な子犬は、
私を見上げて、
めいっぱい尾を振りながら鳴いた。

私は、視線を落とし、
子犬を見つめる。


ー ワン! ー


再び、
子犬は鳴いた。


私は、
徐に腰を下ろして、
子犬を撫でる。


撫でられて、
子犬は、仰向けに寝転んだ。