朝、出勤する主人を見送りに玄関までいく。

履きやすいように、前もって靴を並べておく。

せめてもの、働いている人への感謝の気持ち。

「今日も帰り遅くなるから」

鏡でネクタイをチェックしながら、なんでもないように主人が言う。

「・・・最近、多いね」

不満がにじみ出ないよう、注意しながら言った。

「うん。仕事たまってて。いい加減疲れてきたけど。・・・あ、家のこと、まかせっきりでごめん」

「ううん。貴方こそお疲れ様」

もちっと子供と遊んでよ、とか、家のことほっぽり過ぎじゃないの、と鬱積されかけていた気持ちがふっと軽くなった。

女なんて、ちょろいもんだ。

「もう少ししたら北海道だし。そしたら一緒においしいもんでも食べよ」

「うん。そうだね」

嬉しくなって、カバンを手渡す。

行って来ます、と言って主人がキスをして出かけていく。いつもの習慣。これも感謝のひとつ。

玄関がしまり、陽紀がいるリビングへともどる。

朝ごはんを必死に食べた形跡が、げんなりするほどテーブルを汚くしていた。

ほっておくとどんどん嫌になってくるので、座らないうち片付ける。

特に病気もせずみんな元気だ。

主人は帰り遅いこと多いけど、ギャンブルするでもなく、(多分)浮気するでもなく、何か私に家のこと文句言うわけでもない。

陽紀はおとなしめではあるけど、幼稚園でいざこざ起こすわけでもなく、行くのを嫌がるわけでもない。

幸せ、だと思う。

これ以上、望む事もない。

なのに、なんで「幸せ」と自分に言い聞かせるように言っているのだろう。

ふと考えてしまうことがある。

どんどん気持ちが落ち込んでいく前に、そうだ、もう少しで家族で北海道旅行にいくんだ、と思い出す。

主人が言うように、おいしいもの食べて、広くて色鮮やかな景色を見て、ゆっくり広いお風呂に入って、みんなで笑う。

ほら。

すっごい幸せなことなんだ。今が。