舌のうえで安全ピンを転がす。針を外しさえしなければ、口の中がちまみれになることもないし、ただ錆の味を我慢すれば、なかなか極上の嗜好品に、なるのではないか。このちいさな凶器を、飲み込んでしまえばそれはそこでおしまいだけど。
 冷たさに喉を震わせる。喉の奥で、物足りないって呻く声がする。これは誰の声? 固まった血を溶かすような、あついあつい声。赤ワインはひつじの血液なんだよ、って、教わったことを今思い出す(たぶん嘘だ、だってあいつは嘘をつくとき目が優しくなる)それならきっと白ワインはひつじの涙だ、といったら今度こそあいつは本当に優しい目をした。腹の立つ目だった。