「伝蔵は何か最後に言っていたか?」


「ただ、愛していると。」


「…ふん、奴らしくもない。」



声が震えていたのに気付いた疾風は何も言わず、畳に座った。



「俺はこれからどうしたらいいんですか?」



随分長い間、基子は考えていた。


そして聖母のような顔で優しく言った。



「今まで通りに。
お前は私の息子だ。
派閥や徳川はこれからどうにかしていけばいい。」



そうだ、家光がいた。



疾風は呻いて頭を抱えた。



もとはと言えばアイツが馬鹿な命令を出したんだ、アイツが!



あの甘やかされて育ったボンクラが!



イライラと疾風は体を揺すり、畳を叩いた。



「この馬鹿、うちを壊す気か!」



基子に遠慮なく頭を叩かれ、疾風はハッと我に返った。



「どうせ両派に手下を持っているんだろうからすぐにお達しがくるだろう。
それまでに作戦を練れ。」


「例えばどんな?」



すると即座に基子は言い返した。



「先手を打って家光を殺すとか、城に忍び入って二人とも暗殺するとか。
私達はなんだ?
職業はなんだ?」



気迫に圧倒され、疾風はコクコクと頷いた。