「ハァ……ッ……」

 普段体育くらいでしか体を動かしていないせいだろうか。
 体中から汗が吹き出してきて、息は切れ切れだ。

 やっと自宅まで着いた頃には、制服が汗で肌に張り付いていた。

 自宅まで駆け込むと母がお帰りー、と言うのが聞こえる。
 私はただいまー、と返して、ダッシュで二階の自室へと階段を駆け登った。

 引き出しから白いワンピースを出して制服を急いで脱ぐが、汗のせいで脱ぎにくいし、ベタベタして気持ち悪い。
 近くにあった汗拭きシートを手に取って、上半身だけは軽く拭いてからワンピースに袖を通した。

 それから携帯を手に取り、遅れます!とだけ打って送信する。

 鞄に携帯と財布を入れて、肩にかけてからダダダ、と一階に降りてから、いってきます!とだけ言って外に出る。

 玄関の目の前に停めてあった自転車に跨がり、鞄を前カゴに放り込んで右足に力を入れて──再び猛スピードでペダルを漕ぎ出す。
 このまま行けば、あと10分くらいで映画館には着く筈。

 チラリと腕時計を見れば、6時30分を指していた。

 映画は7時から。それならば、ギリギリ間に合うだろう。

 ハァ、ッと大きく息を吐いて気合いを入れ直した、丁度その時。

───ビュン。

 不意に、後ろから前方にかけて強風が横切っていく。

 驚きの余り、咄嗟に両手で思い切りブレーキを握っていた。

 前方を見るが、特に変わったものはない。

「……風?」

 キョロキョロと辺りを見渡していれば、今度は先程とは逆向きに強い風が吹く


──青色が、見えた。

 近くに桜の木なんてあっただろうか。
 まるで青色の物体の跡を辿るかの様に、桜の花びらがちらちら舞っていた。

 風の抜けた方向に視線を向けると、遥か彼方で青色の"何か"がチラリと見えた。

──自転車?

 一瞬、そう考えたが直ぐに思い直す。
 今のスピードは人間のものじゃない。

 後ろ髪引かれつつ、ペダルに足を掛け直して、自転車を走らせていく。
 どこか懐かしい感覚と、嫌な感覚がない交ぜになって気分が悪くなっていく。
 頭がズキズキと痛み出す。

 私は間違いなく、"あれ"を知っている。そして、今すぐ追いかけなければ後悔する事もわかっている。
 理由なんてわからなかった。

 私は無意識に自転車をUターンさせて青色を追っていた。