帰り道は、少し遅くなってしまった兼ね合いで彼は自転車をいつもより飛ばし気味だった。

 歩行者用の横断歩道は青いランプが光っていた。
 彼が、自転車で横断歩道にある自転車用のスペースを走っていた、その時だった。

 一台の青色の車が信号が赤だと言うのにも関わらず、猛スピードで目の前に迫ってきた。
 その時、時間の流れが遅くなったみたいに感じた。
 頭では何が起こっているのか分かっているのに、体が全く動かなかった。

 彼が振り返って私を思い切り後ろに突飛ばした。

 ふざけて彼と背中をつけて乗っていたから、私は前のめりになって横断歩道端まで吹き飛ばされた。

 その後は、凄い音がして彼が目の前で空に舞っていた。

 何が起こったのか、暫くは理解出来なくて呆然としていた。
 たまたま深夜の仕事帰りと言った感じのおばさんが、慌ててバイクを乗り捨てて近寄ってきたのと、車が逃げ去っていくのが目の端で見えた。

 私は彼の姿を探す。
 彼は白いTシャツを着ていたから、直ぐに分かった。

 足がガクガクして上手く歩けなくて、よろけながら私は彼に近寄る。

 彼は目を瞑ったまま、ピクリとも動かなかった。
 真っ赤な血が彼の体のあちこちから流れて、辺りは血だらけだった。

 左胸に頭を押し付けたけれど、鼓動が聞こえて来なかった。

 私は授業でやった止血法や心臓マッサージを思い出して、救急車が来るまでずっとずっと治療していた。
 彼は助かるって、信じていたから。