「ほら、来れたよ」

 彼の声がした瞬間、

 ザアアアッ……。

 視界一面が桃色に染まっていた。

 記憶の外に塗り固められた壁がバラバラと崩れていく。

「……私は、貴女を知っている」

「うん」

「貴方は、蒼井」

 再び強い風が吹いたかと思えば、青色の自転車はいつの間にか消えて、見慣れた彼だけが目の前に立っていた。

「美夜、思い出させてごめん。……ただ、俺はどうしてもオマエに渡したい物があったんだ」