季節は、春。

 丁度、桜が満開に咲く頃の出来事。



-サクラ-



 文字盤が桃色で、装飾の無い、銀色のシンプルな腕時計を見て、私の焦りは最高潮に達していた。

「ヤバイ……絶対美咲怒ってる……」

 自転車のペダルを、勿論立ちこぎで、前方に体重を傾けながら勢いをつけてとばす。
 だが、こういう時に限って強い春風が吹いていたりして。
 私の行く手を阻むのだった。


 今更後悔しても遅いのだが、こういう時私は自分の遅刻癖を心底呪う。

 弁解をさせていただくと、いつも悪意がある訳ではない。
 何時だって他の事に夢中になってしまったり、変なことに巻き込まれたりしているだけで。
 決して、いや断じて故意にやっている訳では無いのだ。

 ……なんて。
 どれだけ何かを言っても、遅刻は遅刻なのだと理解はしているけれど。

 今回の言い訳は、宇宙人に拐われた、が良いか、正直に友達との恋バナに夢中になってしまったと話すか。
 どちらにしようなどとうっすら考えつつ、足を急がせた。