理由は分からないが逃げようとする女。
それはとても身体が弱っているとは思えない程の走りっぷりで、三日三晩眠りこけていたのと同じ人物なのかとさえ思えた。

それでも男の足には敵わないのか、次第にその距離は縮まる。
目の前で翻る布に手が届きそうになると、ぐっと手を伸ばしてそれを掴んだ。
そのまま自分の方へ引き寄せると、細い腹回りに腕を回し抱え込む。

当然の様にじたばたと腕の中で暴れる女に
「何故、逃げる?」
こう聞くもそれに応える訳もなく、そこから逃れようと身体を捻り続けていた。

身体を動かしながら必死に自分に纏わり付く腕を引き外そうとする女。
その力が意外にも強くて驚いた。そんな事を思っていると、突然、息が止まる程の重い痛みが胃の辺りに広がる。

「…ッ……」

俺は咳き込みそうになるのをどうにか堪えたが、腕の力が緩んだ一瞬の隙に女はするりとそこから抜け出た。

「待て!」

またさっきの様に逃げてしまうのかと思い呼び止めるが、今度は違った。
乱れた呼吸と整え前を見るると、微妙な間合いで留まる女がいた。