少し離れたベッドで眠っている女の様子は、ソファーで横になったままでは見ることは出来ない。
ただ寝返りを打っただけかと思っていたが、そうでないことが直ぐに分かった。

耳を澄まし、その気配だけを感じる。
静かにベッドから下り、足音を最小限に抑えてドアの方へと向かう女。
俺は薄暗い中で少し目を開け、女が部屋の外へ出ていくのを見送った。

開いたドアから女が出て行くと全く音を立てずにドアが閉まる。俺は同じ様に音を立てずに立ち上がり、大きな布を纏った小さな後姿を息を潜め追った。

「どこへ行く?」

家の外へ出て行こうとドアに手を伸ばしたところで俺は声を掛けた。

その声に振り返った女は目を見開き、驚きを隠せないでいる。
気付かれずに出て行く自信があったのか。信じられないといった目が俺に向けられた。
と同時に勢いよくドアを開けると走り出そうとした。

それを瞬時に感じとった俺は、女が一歩を踏み出すより早くその細い腕を掴んだ。

「…やっ……」

小さく声を零して顔を顰めるのを見て、思わず腕を掴んでいた掌の力を緩めた。
腕に負った傷が痛んだのかと思った。しかし女は自分の腕を捕らえる力が緩んだのを感じ取ると、即座に俺の手を払い駆け出す。