暫くの間、無言の時が続く。男はただ赤色の酒を飲み、私はその姿を静かに見ていた。
微かに漂ってくる甘くそして爽やかな香。
それはとても魅惑的な飲み物の様に感じた。

「なんだ?飲みたいのか?」

男の言葉に私は無言で首を振る。
赤い飲み物が気にはなるが、それを飲みたいわけではなかった。

赤いそれが気になるのではなく、それを口に運ぶ男が気になっていたのだ。

「薬飲んでさっさと寝ろ。」

食事をした為か目が覚めた時よりもはるかに身体は軽くなったが、男に言われそれに従いベッドへ向かう。

ただ、薬は飲まずに。

ベッドに入った私は目を閉じる。
頭の痛みもすっかり消え、あるのは喉の痛みだけだった。








衣擦れの音で目が覚める。
薄っすらと目を開けると夜明け前の部屋はまだ薄暗かった。
暖炉の灯はもう殆ど消えかけていて、かろうじて小さな灯りだけが残っていた。

ソファーで寝ていた俺は身体を動かず事なく、部屋の様子を伺う。
部屋の隅に置いているソファーから部屋全体を見渡す事は出来ない。
唯一視界に入るのは、目の前の暖炉にある消えかけの灯りだけだった。