これは具合が悪い時にいつも母が作ってくれていた。
ヤギの乳のほんのりとした甘みが過去を思い出させる。

込み上げて来る涙をぐっと堪え、二口目を口に運ぶ。
飲み込む時に喉に痛みが走ったが気にすることなくそれを繰り返し、気付けば皿の中身は半分程になっていた。

何日間も水だけでやり過ごした。そんな身体が急に沢山の物を受け入れるはずない。
空っぽだった私の胃袋はこれだけでも十分に満足していた。

その間私の目の前に座っている男は何をするわけでもなく、ただ私が食べている様子を静かに見ていただけだった。
黒い瞳に見つめられ落ち着かなかったが、その視線は不快な物とは思わなかった。

私がスプーンを置くと男は立ち上がり、大きな壷の所まで行く。
そしてコップにその壷から水を汲み、再びこちらへやってきた。

テーブルの上に置いてある茶色の袋の中から、小さく折りたたんである紙を取り出す。
包み紙を広げると何か粉の様な物が現れ、ぼーっとその様子を見つめている私を気にする事なく男はそれをサラサラとコップの中へ振り入れた。

「薬だ飲め。」

ぶっきらぼうに差し出させたコップに私は戸惑った。