「じゃあ、ホテルも取っとくから」

『でも、祥ちゃん』

「それじゃあ、悪い、だろ?」

電話の向こうの梓は困ったようにうん、と言った。

「いいよ、それくらいしか出来ないし。
…それより、離婚の話は進んでいるのか?」

梓はしばらく無言の後。

進んでいない、とため息混じりに言った。



俺達はあの再会の後。

直接会う時間がなくて、電話でやり取りをしていた。

次に出るレースは鈴鹿8時間耐久ロードレース。

そのチケットとパドックパスを郵送して、ホテルは…

あらゆる手を使って俺と同じホテルを取った。



今はあの男と別居しているから色々とやりやすい。

でも…話し合いで会えば。

殴られたり、罵られたりするらしい。



なぜ、そこまで執拗にするのか。

まだこの時はあの男の本心がわからなかった。