「…理解ある彼女というても、人妻やろ!」

今までずっと黙っていた光さんがキレ気味に怒鳴った。

「お前の中にはずっと梓ちゃんがおるんやろ?
別れた時もホンマに嫌いで別れたんじゃないし」

俺はゆっくりと後ろを振り返った。

光さんをジッ、と睨むように見つめた。



そう、嫌いになって。

別れたんじゃないよ。

俺みたいな。

二輪ライダーなんて、日本では大して注目されない。

野球の方がうんと有名になれるし、成功すれば幸せになれるから。

ホンの少しのすれ違いで。

俺は梓を突き放したんだ。



「今、梓ちゃんがお前の恋敵と離婚する話が進んでるなら、お前、チャンスやんか!
はよ追いかけんかい!」

光さんの言いたい事はわかるけど。

今はただの騒音。



けれど、けれど…



「…うるさい奴だな」

ため息まじりに頭を振ると駐車場の方に向かって歩き始める。

車で、来てるはず。



「祥太郎!」

後ろから睦海の声が聞こえたけど。

無視した。