「…久しぶり」

俺は他の受講者に気を使いながらそっと梓とその親友、阿倍野 紀香に声を掛けた。

「……本当に、お久しぶり」

梓は切なげに微笑んだ。

「…元気だった?」

俺は出来るだけ平静を装う。

梓の雰囲気がやけに暗いから。

きっと何かあったとは思うけど…

もう、何も関係ないから。

手を差し延べる事は出来ないから。

「…うん」

梓の微笑みは。

俺を…そのまま窒息死させるくらいに淋しくて切ない。



「柏原くん、久しぶり!」

それを打ち破ってくれたのは阿倍野だった。

雰囲気を察してわざと明るい声を上げてる。

「おお、相変わらずだな」

俺もようやく普通に呼吸が出来て、笑えた。

「今日は梓の子供…翔(かける)くんの付き添い。
翔くんね、柏原くんがバイクに乗って走ってる姿に憧れているの」

翔くんは、阿倍野の後ろに隠れている。

人見知りか。

「へえ、そんな事もあるんだね」

翔くんがちらっと俺を見るから微笑むと。

翔くんは嬉しそうに目を輝かせた。

「…ただ、梓は妊娠してるから。
私が梓の代わり」

阿倍野は笑った。



何となく、そうだろうな、とは思っていた。

梓はゆったりとしたワンピースを着ているし。