南紀に居住する人間にとって車は必需品なのであった。

運転する真左人の顔を助手席からじっくり観察する。

さっきは窓から顔を見ただけだったので分からなかったが、かなり背が高そうである。もしかしたら隼人よりも高いかもしれない。

１５５センチしかない晶と１８０以上の隼人では大人と子供ぐらいの違いがあってキスをするのも一苦労である。

「マリコ何見てるの？あんまり見られたら緊張しちゃうよ」

「今まで話してた真左人がこんな顔だったんだなあって思って。最初は少し違和感あったけど、こうやってよく見るとやっぱり真左人そのものって感じ」

「えっ、そ、そうかなあ、何か照れる」

恥ずかしそうな顔を見せながら真左人は車を左折させた。

「えっ、こっち行くの？港の方になんか美味しい店あった？」

「うん、あるよ」

メールでの文章そのものの様に落ち着いた口調に晶は安心してシートにもたれた。

（こっちの方が誰かに会う心配もなくていいか）