「ひっ!……ひゃあああ!」

肺中の空気を搾り出すようなかすれた悲鳴が無意識に口を出た。

後ろに仰け反りながら手の力で必死にあとずさる。ナチも驚いたのか猛烈に吠え出した。

男の顔は既に顔ではなかった。

熟したざくろが弾けたような、鮮明な赤。
顔のすべての肉が裏返ったかのように、原型を全くとどめず潰れていたのだ。

いびつな形になったその肉塊からは、いまだに血が湧き出ている。

激しく蒸せこみ嘔吐した吾郎は、もう一度全身の力を使って悲鳴をあげた。

生まれて60数年、こんな悲鳴はあげた事がない。

それが自分の口から出ているのか自分でもわからないほど、凄まじい悲鳴が早朝の空に響く。

近所中の窓が一斉に開け放たれた。