それだけで吾郎は腰が抜けたようにヘナヘナと座り込んでしまった。

「ナチよお……どうしよう」

勿論ナチは答えてくれない。生憎携帯電話も家に置いてきたから救急車か警察を呼ぼうにも手段が無かった。

後から考えれば、そこで止めておけばよかった。

そうすれば毎晩悪夢にうなされる事も無かったろうし、肉料理が受付けない体にもならなかっただろう。

そしてナチの散歩を昼間の大通りに変更して毎回キチンと排便の処理をする羽目にもならなかっただろう。

家に帰るなり、近所に駆け込むなりして通報し、後はそういうものを見慣れているプロに任せればよかったのだ。

しかし吾郎がとった行動は震える足で男の体をひっくり返した事だったのである。

死者の顔が見たかったわけではない。本当に死んでいるのか確認しようと思ったわけでもない。

ただ無意識に吾郎は男の体を返し、顔を見てしまった。