犬好きなのか少女がこちらに向かってきたので、吾郎は慌ててナチのリードを引き寄せた。

今までも何度か運悪く排便直前に人が通りかかった事があったが、こうやって強くリードを引くとカンの良いナチは、茂みに入るのを待つ。

だが今朝はよほど我慢出来なかったのか、思いがけない強い力で吾郎のリードを振りほどき茂みの中へと消えて行った。

「あら、嫌われちゃったかな? じゃあ失礼します」

「ああ、朝からご苦労だね。頑張りな」

消えたナチをみてそれ以上少女が絡んでこなかったことに吾郎はホッとし、自然と優しい言葉までかけていた。

後姿を見せた少女が角を曲がって見えなくなるのを待ってから吾郎は慌てて茂みに入る。

「おい、ナチ、何してるんだ?早いとこ済ませてくれよ」

犬の排便というのは殆ど一瞬で、クルクル周り目標を定めた後は、数秒で終わる。

彼らには便秘など無いらしい。だが今朝のナチは茂みに入ってから1分以上はたつのに、一向に姿を見せなかった。それどころか妙な唸り声まであげている。