以来、人一倍陰気になった利那は極力目立たない様にひっそりと生きてきた。

そんな利那にも憧れる人が出来た。

同じ高校で数学教師をしている北條拓海である。
年は自分より1才年上の25才で色白で繊細な感じがする青年だった。

ほっそりとした体型は学者を思い起こさせ、無口だが話しかけると、はにかんだ様に笑う、その笑顔が好きだった。

利那が憧れるぐらいだから、勿論それなりに人気があって、拓海に失恋したという女生徒や女教師の話も聞いた事がある。

自殺未遂依頼、人生を諦め何の希望も持てなかった利那だったが、拓海と話す内に少しずつしこりがほぐれていく様な気分になった。

「もう何の夢もないの。何となく生きてるって感じ。食べる分に不自由しなかったらそれでいいかなって思ってる。とにかく誰にも迷惑かけずに出来ればそれでいいわ。誰かの為になんて気分になれない」

「本当にそれでいいんですか?藤川さんが死のうと思ったのも、命が助かったのも、この学校で働いているのも全部意味のある事だと僕は思いますよ」