とても暑い日だった。

狂った様に無くセミを窓の外に聞きながら利那は夢を見ているかの様にベッドで視線をさまよわせた。

まじまじと左手の薬指を見る。

決して大きくはないが形の良いシンプルなデザインのダイヤが眩しい光を発していた。

こうやってリングを見つめるのもさっきから何度目だろう。

利那にはどうしても現実とは思えなかった。

思い掛けない幸せの絶頂に精神がついていけない。

半ば拓海への想いは諦めかけていたのだ。

蓬莱学園高校の事務室に勤める藤川利那は殆ど目立たない存在だった。

決して容姿が劣るとかいう訳では無いのだが、高校3年の時に失恋して自殺未遂した影響が今の利那に色濃く現れている。

その時に切った手首の傷は腕時計や長袖を着る事で隠しているが心の傷は隠せない。