父の胸に飛び込んだのは、これが最初で最後である。
瞬間、義光は10歳の我が子を抱きしめるような格好になった。

父と息子の初めての抱擁……そして義光は物も言わず頭から階段を転げ落ちていった。

部屋に飛び込んだ拓海は頭から布団をかぶって泣いた。

ただひたすら泣きつづけた。

父を突き落とした事が怖かったのではない。
父を可哀想といった感情や、ましては恋しいといった気持ちも無かった。
 
自分でも訳がわからず、拓海は一生懸命、父との思い出を探った。

運動会、授業参観、親子のキャッチボール……。

何も無かった。

拓海達はいつも母と晶の3人でしかなかった。