もっとも最初から殺すつもりではなかった。
昼間、義光に殴られた頬が痛んで眠れなかった拓海は深夜の3時に外に出た。

外の冷たい空気にふれれば痛みも少しはやわらくだろうと思ったのだ。
火の車の家計をなんとか回している母の貴子を見ると薬を買ってくれとはとても言えなかった。

そして外に出た拓海の目の前に移ったのは階段にたたずむ義光の後姿だった。

あの時、父は何をしていたのか?
少し上を向いて空を見ているようにも思えた。
その背中はいつも暴力を振るい妹や母を泣かす鬼の形相は感じられなかった。

どれくらいの間、父の背中を見ていただろう、数秒か数分か……気が付いた時、義光は拓海の方を振り返り不思議そうな顔をしていた。

「どうしたんだ拓海?こんな夜中に……」

父の言葉が終わらない内に拓海は義光めがけて体当たりしていた。