母親の貴子の言葉が言い終らないうちに病室の機械が嫌な電子音を発した。慌てて医師が聴診器で鼓動を確かめる。

続いてライトで義光の瞳を覗き込んだ医師は拓海がテレビドラマで見たのと同じ様に少しうつむき加減で貴子に向かった。

「ご臨終です」

人の一生が終わると言うのはこんなにも簡単であっけない物だろうか?10才の拓海には憎い父親が死んだ事に何の悲しみもなかった。

それよりも命が終わる事への連続した静かな時間、クライマックスも何もない流れる様な時間が不思議で仕方なかった。

「お父さん死んじゃったの?」

それまで黙っていた晶が少し沈んだ声で誰かにともなく呟いた。

「うん……」

「もう晶やお兄ちゃんをぶったりしない?」

「大丈夫よ。あなた達はお母さんが守ってあげるから。大丈夫よ心配しないで」

まるで自分に言い聞かすかの様に貴子は目を見開いたまま無表情に晶と拓海を抱きしめた。

「お母さん痛いよ」

そのあまりの力に拓海が苦痛の声を出す。

「北條さん、早速で申し訳ないんですが、またお話を聞かせていただけないでしょうか?」

静寂をやぶるように、2日前にもあらわれた刑事が病室に入ってきた。