「お兄ちゃん待ってよ、一緒に行こ」

もう3月を過ぎたとは思えない寒さに背中を丸めていた拓海は、声をかけてきたのが妹の晶なのを見て表情を崩した。

父親の暴力に耐えて暮らしてきた北条家の身内は拓海にとって戦友のような感じがする。

「晶そんな薄着で寒くないのか?」

「だってもう3月だよ」

拓海たち兄妹が住む和歌山県南部は本州では最南端のため他から比べれば温暖な方であろう。

実際3月の気温は15度前後が続くが、ここでしか暮らした事の無い拓海には十分寒かった。

「な、何すんだよ」

いきなり腕を組んできた晶に拓海は驚いて声を出した。

「声が裏返ってるよ。そんなに照れなくても、ホントは嬉しいくせに」