俺は実家に足を踏み入れた
廊下に足を置くだけで、木の軋む音が響いた

家の中には、クッキーの甘い香りが充満している

祖母の焼くクッキーは甘さが抑えられていて、美味しかった

瑞希が、実家に来るのを教えておいてくれたのだろう

俺には両親がいない
幼い頃からすでにいない

死んでいるから

俺は母方の祖父に引き取られて、育ててもらった

大学まで養育費を全て払ってくれ、生活する場所を与えてくれた

すごく感謝をしている

「竜也さん、おかえりなさい」

祖母がやわらかい笑みを俺に向けれくれた

俺は「お久しぶりです」と頭を下げると、畳みの上に置いてあるソファに腰を下ろした

和室なのに、洋風な家具が置いてある
なんとも違和感のありそうで、うまくマッチしている室内だった

廊下からせわしない足音が近づいてくると、ドアが勢いよく開いた

「竜也! 稽古やろうぜぃ」

6、7歳くらいの男の子が竹刀を肩に置いて、息をきらして立っていた

「これ、竜乃。竜也さんは忙しいのよ」

俺の甥っこに向かって、祖母がさびしそうな笑みを送った