あるところに
一匹のきつねがいました。
きつねは毎日毎日人間にばけて
人を騙して暮らしていました。
男が通れば綺麗な女に化けて
女が通れば格好いい男に化けて
荷物やお金を盗んで楽しんでいました。
そんなある日、きつねは一人の少女に出会いました。
きつねは一目見ただけでその少女のことが好きになりました。
真っ黒で艶のある髪を肩まで伸ばし
くりっとした大きくて可愛いらしい目はどこか寂しそうでした。
きつねは化けることも忘れて
ただ少女のことを見つめていました。
少女はきつねがいることを気がついて近づいて来ました。
きつねは凄く胸がどきどきするのを感じました。
「きつねさん。こんなところで何してるの?」
少女はきつねにそう問いかけます。
しかし、化けていないきつねは返事をすることができません。
だから返事をする代わりに少女の足に擦り寄りました。
少女はそんなきつねを見てうれしそうに笑います。
それを見たきつねはうれしくてまたりませんでした。
「きつねさんは一人なの?あたしもね、ひとりぼっちなんだ」
そう言って少女は笑いました。
しかし、きつねにはその笑顔が凄く寂しそうに見えて
自分まで悲しくなってしまいました。
だからきつねはもっと少女に擦り寄って
少女の白い手を舐めてあげました。
すると少女はまたさっきみたいにうれしそうに笑います。
きつねはぎゅっと自分の胸が締め付けられるのを感じました。
それから少女は楽しそうに自分のことをきつねに話し続けました。
今少女は一人で暮らしていること
死んでしまったお父さんとお母さんが大好きだったこと
お金を稼ぐ為に大きなお屋敷でお手伝いをしていること
コスモスの花が大好きなこと
きつねは少女のことがたくさん知れてとてもうれしくなりました。