岩井は額に青筋を立てて、

小林の抱えている子犬を指差した。

「ああ、こいつ植え込みの近くにいたんですよ。

首輪してないから野良かな? 

もう名前も付けたんですよ。

柴犬の『しばちゃん』」

「馬鹿野郎!! 

尾行中に一時でも標的から目を離す奴があるか! 

まさか、マンションの中に入れないと知ったのは、

犬拾ってからじゃねえだろな?」

「後だろうが結果は同じでした!」

「てめえ! 

そもそも、うちの事務所にペットを飼う余裕なんかねえんだ! 

元いた所に戻して来い!!」

「やだ!! 

だって今日はこんなに寒いのに、置いてったらすぐ死んじゃいます! 

岩井さんには分からないんですか? 

しばちゃんが、

『拾って下さーい』

『小林一月君好きっ天才っ万歳っ!』

って言ってるのが……!」