それからしばらくして手紙を読み終えた男は、顔を上げて侍女に話しかけた。


「ふむ、帝からのお呼び出しだ。私は今から朝廷へ向かう。
すまんが至急牛車を用意してくれ。」


「はい、かしこまりました。
…さすがは京都に名を知らない者は居ないとまで言われる陰陽師…休む暇もありませんね?旦那様。」


侍女は誇らしそうな笑みを浮かべると、一礼して退室していった。


その様子を見た後で男は手紙を折り畳むと、ゆっくり立ち上がって呟いた。


「文の内容からして恐らくは葉明の元にも届いておるだろうな…。あ奴が素直に受けるとは思えんが…。」


男は軽く頭を降ると透の横を通り過ぎて部屋を出て行った。


(今…何て言った!?…確か葉明と言わなかったか?)

透は振り返って男の背中を見ながら、どこかで聞いた名前を思い出そうとしていた。