その頃神界では、両手をあげた天照大神がゆっくりと手を降ろす所だった。


「これでよい…。現世にいる人間達の戦いの記憶は消去した。三種の神器の秘密もスサノオの記憶も人間達が知るには過ぎた知識じゃ。
…当然、天岩戸へと消えたお主の事も忘れておる。」


天照は胸の前で合掌すると、優しげな口調で語った。


「そうですか…。」


「…自分という存在が忘れ去られるのは辛いか?」


一言だけ呟いた透に天照は問いかけた。
しかし透は頭をゆっくりと左右に振ると笑顔で答えた。


「全然と言えば嘘になります…、でも居なくなった人に会えない辛さは誰よりも知っています。
人間達の未来が守られたのなら、俺の事覚えているだけ辛いから…。いいんです。」


そう言って神楽一族が滅んで以来、今まで家族も無く一人残されてきた透は、ここにいる両親と祖父の顔を見た。


『良くやったな透、一族はこれで滅びてしまったが、ワシは胸を張ってご先祖様に報告出来る。』


『そうだ、息子よ。よくぞここまで耐え抜いた。誇りに思うぞ。』


『一度も抱きしめてあげれなかった透…、まっすぐに育ってくれてありがとう。』


「爺様、父さん、母さん…。」


透はその言葉に胸が一杯になった。