「沙綺…これからの戦い…どう考える?俺は正直戸惑いを隠せない。
神なんて居ないと思ってたから…。」


沙綺はその質問にすぐには答えずに、ゆっくりと煙を吐き出した。

カーテンの隙間から見える月を見つめて何かを考えているようだ。

透はそれ以上の事は言わずに、じっと沙綺の言葉を待った。


「ふぅー。こうやって煙草吸いながらお月様眺めるのも、久し振りな気がするぜ…。」


「…そうか…。」


「ガキの頃の話なんだが、俺は昔親父に肩車された時に月を掴もうとして手を伸ばした事があるんだ。
…親父はそれを見て笑ってた。
凄い優しい笑顔でな。俺は大好きだったよ。」


沙綺は月に向かってフッと笑った。


「でも運命のイタズラって奴で、ある日妖怪に殺されちまった…。
俺の目の前でな…。俺は無力だった。」


悔しそうに唇を噛んだ沙綺は、透の方へ顔を向けた。


「俺は大切な人を守りたくて退魔士になった。
拾ってくれた御館様に恩返しがしたかった!
…しかし現実はどうだ?
俺は二人目の親を失った…。またしても何も出来ずにな!!
…相手が神だろうと関係無い。この戦いは譲れないんだよ…神楽。」


沙綺は今まで見せた事の無い深い悲しみと、決意の眼差しで透を見つめていた。