サックスパートのところへ、
ドキドキとした気持ちで近寄る。

「あ、あのー……」

なんて挙動不審ぎみに近くにいた
優しそうな女の先輩に声を掛けると、
その先輩はすぐに振り向き、
満面の笑顔を浮かべていた。

「あっ、体験入部の子だよね!?」

「は、はははい!」

緊張しているからか
余計に声が小さくなっていた。

「私が教えるから、一緒にやってみよう?」

「はいっ!」

そうやって私のところに手渡された、
何年も使い古されたような
歴史を感じさせるサックス。

ずしりとした何とも言えない重みが、
それを更に強く感じさせていた。

「まず、このマウスピースを……」

先輩の話をひとつひとつ注意深く、
出来るだけ集中して真剣に聞いていく。

それを聞いていると、見ているだけでは
全く分からなかった大変そうな部分や
難しい部分がたくさん見つかった。

結局、その日は音をまともに出せずに
体験入部は終了してしまった。

しゅんと肩を落とす私に対して、
その先輩が、
『大丈夫。誰だって最初はそんな感じだよ』
と優しく励ましてくれて、
やっぱりサックスがやりたいと思った。

そして、麻耶と数時間ぶりの再開。

「ねえねえ、そっちはどうだった?」

興奮気味に、私から切りだしてみる。

「うん、すごく色んなお話が聞けて…
とにかく勉強になったよ。」

しみじみと、落ち着いた様子で
麻耶が私に笑顔を向けてくる。

「やっぱり!私もそうなの!」

麻耶とは対照的に、私はいつまでたっても
この興奮を抑えきれなかった。

「ふふ、やっぱり吹奏楽部に入ろうね。」

「もっちろん!」

興奮が最高潮になった私は、
大きな声で周りも気にせずに叫んだ。