「…?」

何故かその女の先生は、
不思議そうな顔をしていた。

「あの、石垣先生は…」

よく分からなかったけど、
とりあえずもう一度尋ねてみた。

「えっと…私が、石垣です。
教科連絡の子だよね。
器楽と1年の教科書2冊と、
リコーダーを持ってきてね。」

その言葉を聞いた私は、
その場でええっ!?と
大きく叫びそうになった。

「あああの…すいませんでしたっ!
それから…ありがとうございましたー!」

もうただ頭が真っ白で完全に
パニックに陥っていた。
ひたすら深くぺこぺこと頭を下げて
石垣先生に必死に謝って
その後の私は逃げ出すように
麻耶のところへと戻った。

「あれ、どうしたの?」

呑気に笑って麻耶が訊いてきた。

「そ、それが…石垣先生って…ね…
あの……その…女の先生だった…」

「そうだったんだ。
でも、どうしてそんなに慌ててるの?」

単語でしか言葉を発せないため
麻耶はまだ状況を理解しきれていなかった。

「いや、あの女の先生が石垣先生で、
それなのに石垣先生はどこですかって
本人に訊いちゃったんだよー!!」

ほとんど叫ぶように、
大きな声で一息で言いきった。

その言葉を聞いた麻耶は
なぜか顔を覆って笑い出した。

「あははっ、それは石垣先生困っちゃうよ~」

「それよりホント恥ずかしかった…」

「もー、璃子ったらドジだね~」

これは、私が入学してから
一番恥ずかしかった事件だった。

そして、初めての音楽の授業があった時に、
当然のことながらまた石垣先生と会った。

あんな迷惑なことをした私は
どんな風に見られるのか…
と前からすごく心配していたら
石垣先生は、私をイタズラっぽく
笑いながら見てくれたので、
何だか安心して、胸を撫でおろした。