シャッターの閉まった書店の裏
私はチャイムを鳴らす
緊張と言うよりは
ワクワクした
一生に一度
自分のワガママを押し通す
「はい」
伊織くんが玄関のドアを開けて
私の姿を見て
目を見開く
「なんで?」
そう言う伊織くんに
私は笑って
「押し掛け女房です」
少しでも可愛く見えるように小首を傾げてみた
伊織くんは脱力したように
はぁ……って息を吐いて
「そういうキャラだっけ?」
苦笑いをした
伊織くんに帰れと冷たく言われる前に
「身辺整理はしっかりして来ました
親にも言ってあるし
伊織くんがそれでも私を追い返すなら
私っ、今夜からホームレスになっちゃうんだからっ
だから……伊織くん……
私…………………」
用意して来た言葉を
最後まで言い切る前に
私は伊織くんの腕の中に
すっぽり包まれて
「い……伊織くん……」
ギュッと伊織くんは私をきつく抱きしめて
「バカだろ?風羽ちゃん」
囁く彼の声が聴こえた