大学の図書館
本棚の前で
参考資料を探してた
『伊勢物語』についてのレポートを書かなければならない
ぎっしり詰まった本棚から一冊 本を抜き取ると
「風羽」
「………てっちゃん」
いつの間にか隣にてっちゃんが立っていた
「今日さ………」
てっちゃんは腰を屈めて
私の耳元に唇を寄せて
「今日、友達、家に泊めたいんだ」
私はチラッと てっちゃんの目を見てから
―――友達―――
いつもなら
彼女とはっきり言うクセに
伊織くんと別れて落ちてる私に気を遣ったのかな?
てっちゃんが そんな気を遣うのも意外に感じたけど
その変な気遣いが無性にしゃくにさわる
私は手にした固い革の表紙の重たい本に視線を落として
「わかった。じゃあ今夜は実家に帰る」
「……わりぃな」
てっちゃんが離れて行く気配を感じて
本から視線を上げ
図書館を出て行くてっちゃんの
大きな背中を唇を噛んで
見つめた