伊織くんは私に優しかった



絶対に手を出さずに


優しく手を握り



私を癒えない渇きの穴埋めに
利用してたと言うならば



ボロボロに



優しくしないでボロボロに



身体も傷付けて欲しかった




「……手が……
優しく握りしめてくれた手が

嘘だって思えなくて

伊織くん………

私を大切にしてくれた

あんな話を聞いても

憎めないんだよ………

裏切られてたのに

憎めないんだよ………

あの夜の伊織くんの苦しそうな
哀しそうな瞳が焼き付いて


愛しい人の元へ帰ったんだって
思っても

どうしても……憎めない」




ポタポタ涙が溢れて



視界がぼやけて



リビングの全ての物が歪んだ




「お願い、てっちゃん
私を傷付けて


伊織くんは傷付けてくれなかった

辛いの…………

お願い、傷付けて………」




泣きながら頼んだ



長い 長い 間があいて




「………出来ない……」



てっちゃんは震えた声で言った



後ろでバタンとドアの閉まる音がした



てっちゃんが部屋に戻って



またひとりぼっち



リビングに取り残される