マンションのエントランスに入ると階段を降りて来たてっちゃんに会う
………デートに行くのかな?
私を見て てっちゃんが
「…風羽…………」
そう言った瞬間
「空羽ちゃん!」
背中から伊織くんの声
―――なんで?―――
一瞬、私の心臓が止まった
ゆっくり振り返ると
「これ、助手席に落ちてた。
空羽ちゃんのバッグに付いてた物だよな?」
伊織くんの手には白いクマのチャーム
バッグを見ると いつも付いていたクマがない
「……あ…ありがとう」
白いクマを受け取るため
手を出すと動揺して すごく震えていた
「じゃ、またね。空羽ちゃん」
伊織くんは そのままエントランスを出て車に乗り帰って行く
………どうしよう
伊織くんは私がてっちゃんに『風羽』と呼ばれた事に気がつかなかった
…………でも
私は怖くて後ろを向けない
「……お前の名前って『空羽』だったか?」
てっちゃんの低い声が
エントランスに響いた