一緒に中に入った瞬間、真っ暗やみの保健室の中。

白衣を着て、取りみだしたように髪を乱し、床に座り込んでいる江島先生が目の前にいた。

「…江島先生!!」

泣きはらしたような瞳で、怯えたようにガクガクと震えている先生。

わたしは先生がまだ生きていたことにほっとして先生に近寄り、屈みこんで先生の頬に手を伸ばした。

「先生…よかった、無事で。一体…何があったんですか!?」

先生はその時初めてわたしに気づいたような様子で、わたしを見た。

「い…入江さん…。わ、わからないの。気づいたらあの人が血だらけで倒れていて……」

先生の白衣にはいくつかの血の染みがついていた。

江島先生は差しだしたわたしの腕を震えながら掴むと、

「ヴァ…ヴァンパイアが、ほんとうにいたなんて…」と、嗚咽まじりに言葉を吐きだした。

後ろに立っていた穂高が冷静な声で先生に話しかける。

「そのヴァンパイアは…陣野先生でしたか?」

「…穂高……」

振り返ると穂高の瞳は、かすかにバイオレットに光っていた。

この瞳、知ってる。

ママの小説の中のヴァンパイアの高貴なものだけが持つというバイオレットの瞳。

……穂高には『高貴なヴァンパイア』の血が流れているんだ……。

「…陣野先生は自分をヴァンパイアだと言ったわ。でも…わたしはそんなこと信じてなかった。彼に惹かれていたし、彼にどうされても構わないと思った。でもまさか……ほんとうにヴァンパイアだったなんて……!」