「和葉さんの様になるのが怖いわけじゃない。誰かに伝えたくて発する音楽が、私の声が誰かを傷つける武器になり得るのかと思うと怖くて、少し悲しい。」



絢音はそう言って苦しそうに笑って見せた。


正直、驚いた。


そんな風に捉えていると思わなかったから。


『あの話を聞いた時からそう思ってたのか?』



「うん。結局和葉さんを傷つけたファンの人だって最初はただ純粋に和葉さんが、和葉さんの音楽が好きだっただけだと思うから。」



俺は初めてあの話を聞いたとき、そんな風には思わなかった。


この世界の闇を知って唖然とした。怖いと思った。醜いと思った。



俺の中にあったのは不信感と恐怖、それだけっだった。



でも絢音は違う。



いつだってこいつは一番に疑ったり、悪だと決めつけたりしない。



みんなそうなのだろうか?
俺の心が醜いだけなのだろうか?



『歌えよ。音楽で傷つけたら音楽で癒せばいい。』



思う前に口が動いていた。


コイツの歌が聞きたい、コイツの音楽を知りたい。
その思いがどんどん溢れてくるのを感じる。


絢音は一瞬目を見開いた後


「歌うよ。」


そう言って笑った。