翌日、俺は絢音の家にいた。


「何か飲む?んー何かあったかな?」


いつも通りの絢音。


「残念だけど家にお酒はないよ。」


そう言ってにやりと口角を上げると冷蔵庫を開け、透明のグラスにアイスコーヒーを注いだ。


『別に四六時中飲んだくれてねーよ。』


「そうなの?お酒しか受け付けない体なんだと思ってた。」


『は!?馬鹿のくせに馬鹿にすんなよ。』


「ふーん、馬鹿じゃないです。」


いつも通りのやり取り。


いつだって誰にだって変わらない絢音。



でも…



『なあ、どうするんだ?デビューの話。』


「んー、考え中。」


誰にも見えないところでいつも何かを抱えて、我慢している。そんな気がするんだ。


『たぶん辛い思いすると思う。
理想とは違う世界の厳しさを知ると思う。

万人に支持されることなんてないし
いつか俺の存在がお前を傷つけるかもしれない。

楽しいことなんて、数えられるほどしかないかもしれない。』


なあ、なんでこんなこと言っても笑ってるんだ?


『でも、なれよ。夢だったんだろ?
届けてやれよ、お前の想いも歌声も。

お前の歌に救われる人はきっとたくさんいる。俺がそうだったように。』


気が付けば俺は絢音を抱きしめていた。


優しく、強く抱きしめる。


強がりな絢音の体が小さく震えていた。守りたいと思った。誰かをこんなにも守りたいと思ったのは初めてだった。