そんな胸騒ぎを感じていた俺が
絢音からの着信に気付いたのは翔や陽と別れた後だった。



「何?」


携帯を耳に当て、やたらうるさい鼓動を隠すかのようにぶっきらぼうに問う



付き合い始める前からも良く電話をしていたのに
いざ自分の気持ちに気付くとやけに緊張する。


「そ、そ、蒼空!?」


「な、なんだよ?」


そんな俺の緊張をよそに電話越しの声はやけに慌てたような、混乱したような声だった。


「あ、あの、あのね。」


「バカ。とりあえず落ち着け。」


俺は言葉も出ないほどに混乱した絢音にため息混じりにそう促した。



本当に騒がしいやつ。


俺は次の言葉を待ちながら自室のソファーに腰をかけた。


コイツがこうやってあたふたしながら電話をしてくるのは、珍しいことじゃなかった。



“部屋にゴキブリが出た”とか“蒼空ニューアルバム出すの?!聞いてない!”とか。


大概は正直大した内容じゃない。
だからコイツも俺に落ち着けと言われると、いつも深呼吸をして1度冷静になるのだ。



しかし、今日の電話はいつもと違った。


「ちょ、ちょっと落ち着けそうにない。」


俺は、その言葉を聞いて何故か胸騒ぎがした。


「何かあったのか?」



「あのね、えっと…
とりあえず今から家行っていい?」


「バカか、こんな時間に1人で出歩くな。俺が行くから。」


俺はそういうと財布と部屋の鍵だけ握り締め部屋を出た。




そしてこの胸騒ぎを隠すように小走りで駅へ向かった。