「ごめんね。これはあげられないんだよ」


女の子はそれでも近寄ってくる。


「だって欲しいんだもん」


そして、ポケットから小さなナイフを取り出した。

ゾッとするな。

彼女は本気だ。きっと罪悪感などなしに俺を殺せる。

暴力をいとわないんじゃない。

手段を選ばないんだ。

前の世界の子供とはまるで違う。

彼女達は羊として生きてはいない。

むしろ羊を喰う狼だ。


「だって欲しいんだもん、で、人を殺しちゃいけないよ」


俺は女の子のほうに向かって走った。

きょとんというまるきり子供の顔をしたその子の頭を飛び越える。

あとは一目散。

子供には追いつけない速度で走った。