弱い風が俺の髪を揺らす。

日差しはきつくもなく、ほどよい温度で体を包んでいた。

今が何月なのかよくわからない。

多分、こいつが咲いているんだから、

三月か四月か、そんなところだろう。

歩き出そうとした俺のそばに、

近くで遊んでいた子供の一人が近寄ってきた。


「それ、なに?」


鉢植えをもの珍しそうに見ている。

汚れた綿シャツと短いズボン。

短い黒髪と大きな黒目がちな瞳。

こういうなりだと男の子なのか女の子なのかわからない。


「タンポポだよ」

「たんぽぽ」


同じ言葉を繰り返され、俺は苦笑した。

見たとおりなら、こいつは確かにタンポポだ。

実際はもっと複雑で、タンポポだよなどと

簡単に言うことなどできないのだけれど、

まぁ、子供相手に複雑な状況を説明してもしかたがない。