終戦後にロンドンを模して作られた津久美の概観によく似合う、まるで昔の探偵小説にでてくるような印象の建物だ。

 錆の浮いた銅色のノブを引き、香しい珈琲の香りの中に滑り込む。

「いらっしゃいませ……またお前か小娘」

 グラスを拭いていた青年が悪態をつく。

 私の自惚れかも知れないけども、それは決して嫌そうな感じじゃない。むしろ私をからかっているような。

「せっかく来てあげたんだから、ほらほら笑顔」

 にーっと笑ってあげると、はいはい、と片手を振って苦笑を返してきた。

 中々難しいもので。