「あの、先輩」


「………」

「私、今、好きな人がいて、その、ずっと、目で追ってるだけなんですけど」


「………」


先輩は、きょとんとしてこちらを見てる。


ガラスの瞳に自分が映っていて、なぜか恥ずかしくなる。

突然話しかけ過ぎたのかな、私のこと覚えてなかったりする?

一応、サークルじゃ池谷先輩とめちゃ仲いい後輩のつもりなんだけど…!!


「その好きな人って、じゅん君っていうんだよねぇー?」

隣にいた池谷先輩が、横から助け船に似たツッコミを入れてくる。

「応援してるよ、絵里子。ねぇ七海も応援してあげてよ」

先輩が「先輩って私のことだったんだ」と小さく呟くと、池谷先輩が当たり前じゃん!と笑ってみせた。


そうか

名前で呼ばないと自分を呼ばれたかとか、分らないか。

先輩はガラスの瞳を優しく細く弓のようにしならせて笑顔を作ってくれた。


「がんばってね」


恋は不思議だ。

たった1つの恋で、人との関係がこんなに広がっていくなんて。