私も思わず笑ってしまったけど、自分のことみたいに恥かしい。

普通の神経じゃないよ、あの人。

余裕のつもりなのかな、だったら嫌な感じ。

「黒沢、ノートノート」

後ろの席の河田君が机の上に置き去りのノートを振るが

彼、黒沢君は答えなかった。

「いいよ」

板書で間違えたら格好悪いのに

白いチョークが擦れて

式が展開する。

彼が導いた解は、とてもシンプルだった。

8行に及んだ私の途中式が、彼の手によって5行に短縮されていた。

私は自分のノートと黒板を交互に眺めて、式の展開をなぞった。

そうだここの式は、定理を生かして簡単に纏められたのに。



「なんて、シンプルなんだろう」




教壇から降りて席に戻る彼を、穴が開くくらい見つめた。

黒髪黒い目

河田君のように、特に目をひく特別な何かはないはずなのに。

零れるような輝きを感じて、釘付けになった。

私が複雑な式の森を抜けて辿り着いた答えの先で

彼はとてもシンプルな道の抜け方を知っていて

…挙げ句の果てに1等を取って、眠っていた。