具親は少し間を置いて二の丸御門に出てみた。案に違わず、そこに張り込んでいた信雄の兵士らは波野姫を具親と思い込み全員で追って行ったものとみえて誰も居ない。そこで尾根伝いの道を懸命に走って逃れた。
ふと、下の方を見ると櫛田川の流れに沿うて道があり、その道を流れに遡行するように駆け抜ける十騎の騎馬武者が目に入った。
逃走する波野姫の一団である。手綱裁きも巧みに先頭を駆けていくのは紛れもなく波野姫である。その横に佐々木与志摩がピタリとつき従い、守っている。
しかし、一団の直ぐ後を信雄勢が追撃していた。やがて信雄勢の先頭が殿(しんがり)を駆けていた岸江、稲尾の両名に追い付いて斬り掛かる。
振り返って応戦する者が一人、二人と落馬した。具親は一人山頂を駆け抜けながら、眼下の光景から目を逸らすわけにはいかなかった。
山肌に視界が閉ざされた時、具親は泣いていた。なんとか逃げきって欲しい。妻よ、お前だけでも生き延びてくれ。そう願いながら尾根を懸命に駆けた。
ふと、下の方を見ると櫛田川の流れに沿うて道があり、その道を流れに遡行するように駆け抜ける十騎の騎馬武者が目に入った。
逃走する波野姫の一団である。手綱裁きも巧みに先頭を駆けていくのは紛れもなく波野姫である。その横に佐々木与志摩がピタリとつき従い、守っている。
しかし、一団の直ぐ後を信雄勢が追撃していた。やがて信雄勢の先頭が殿(しんがり)を駆けていた岸江、稲尾の両名に追い付いて斬り掛かる。
振り返って応戦する者が一人、二人と落馬した。具親は一人山頂を駆け抜けながら、眼下の光景から目を逸らすわけにはいかなかった。
山肌に視界が閉ざされた時、具親は泣いていた。なんとか逃げきって欲しい。妻よ、お前だけでも生き延びてくれ。そう願いながら尾根を懸命に駆けた。